回転寿司戦争


1

車は逢坂峠を登りきり、山科の盆地に向かってするすると軽快に下って行った。
僕らは寿司を食べに行くのだ。
車を運転しているDはカーステレオから流れる音楽に合わせ、リズミカルにハンドルを操っている。
僕は助手席に座り、併走する京阪電車を眺めている。
後部座席には後輩のIがいる。彼が僕らと共に寿司を食べに行くのは、今回が初めてである。
初めて寿司を食べに行く……そのことはIにとって、初戦の幕開けを意味するのであった。

「鮨屋、混んでるんですかねえ?」
Iが僕らに訊いてきた。
「強烈に混んでいる。一時間以内に食えたらええ方やろ」
Dが答える。
「そんなに混んでるんですか?」
Iがそう感じるのは当然のことだろう。なぜ、一時間も待ってまでして寿司を食べなければならないのか? と。
しかし、寿司屋が強烈に混んでいるのは紛れもない事実である。誰も彼もが寿司を求めているのだ。
一体何故?
Dも僕も、その質問に対する答えを既に用意しているのだ。
寿司の秘密を知っているのだ。
「I君、まず始めに言っておかなければならないことがある。基本的に、寿司は、戦争です」
Dが寿司の秘密を打ち明かした。僕は当然だとでも言わんばかりに深く深く頷く。
Iは返す言葉が見つからないのか、ただただ苦笑している。

寿司戦争が起きているのだ。
寿司屋が、客が、寿司自体が、寿司という概念そのものが、戦旗を掲げ、日本中を行軍の列で埋め尽くしているのだ。


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