便所の物語




これより、五つの不思議なお話を紹介させていただきます。
不思議、というよりは、不可解、と言った方が適切かもしれません。
これらのお話は全て、便所にまつわるものばかりでございます。

「便所?」「何だそりゃ?」「下ネタは止した方がよろしいのではないでしょうか?」
と疑問を持たれる方も大勢いらっしゃるでしょう。
その疑問に答えるのは簡単でございます。単純に、私は、便所が好きだからです。
幼少の頃から現在に至るまで、私にとって知的好奇心を大いにくすぐる興味の対象、それが便所でした。
変態だと思われても仕方ありませんが、便所にまつわるお話を聞くことは、私にとって最大の楽しみの一つなのです。
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、その言葉には微塵の嘘も含まれておりません。

予め断っておきますが、私の本職は冴えない物語作家でありまして、
便所について専門的に研究している学者であったり、便器を製造している職人であったりするわけではございません。
したがいまして、以下に紹介するお話は、便所に関する研究書でもなければ調査書でもございません。
便所の物語、なのです。
と言っても私の創作ではありません。私が聞き集めたものばかりでございます。

さて、この便所の物語群は、老いぼれの道楽が暴走したことによってもたらされたに過ぎないものであり、
勉学にも商売にも役立たない食えないものばかりでございます。
「これらの話は全て、意味不明且つ奇奇怪怪な寓話の寄せ集めに過ぎない」
実際に読んでいただければ、賢明な読者の皆様方はそのように思われるでしょう。
もっともなことです。当のお話を集めた私自身、そのように思っているのですから。

ただ、内容の真偽についてはともかく、これらのお話が一部の人々の間で語り継がれていることは紛れもない真実であります。
御伽噺の世界へ足を踏み入れるような、そんな感じでこれらの物語群に接していただくこと。
……それが読者の皆様方に寄せる私の唯一の期待であります。
尾籠な話で恐縮ですが、ご興味を持たれた方は是非最後までお付き合いください。

平成×年 ×月×日  編者 N市内の自宅にて


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